多摩川散歩

東京都と神奈川県の境を悠然と流れる多摩川。多摩川の魅力をたっぷり紹介します。

多摩川を遡上する天然アユの調査
(アユ遡上調査)

多摩川アユ遡上調査~多摩川を遡上する天然アユの数は、アユ遡上調査と称して毎年、定置網を設置して調査されています。アユ遡上調査の概要と結果(=多摩川を遡上する天然アユの数)を紹介します。

多摩川のアユ遡上調査
アユ遡上調査で設置した定置網(多摩川左岸)

多摩川では毎年3月~5月に、定置網によるアユ遡上調査が行われています。

場所は調布取水堰の下流。ガス橋から約500メートルほど上流の多摩川左岸です。毎年同じ位置に定置網を設置して、多摩川を遡上する天然アユの数を継続して調査しています。

ところで、定置網といっても、多摩川を遡上する「すべてのアユ」を捕獲できるわけではありません。
定置網に入った、ごくごく一部のアユの数をもとにして、どうやって「全体数」を推定しているのでしょうか。大いに興味があるところです。

ここでは、じっくりとその全容を紹介することにしましょう。

高度成長期の水質汚染を克服して、多摩川に再びアユが回帰してから40年。いまでは毎年、500万匹を超える天然アユが多摩川を遡上するようになりました。

多摩川 天然アユの遡上調査

多摩川のアユ

将軍家に献上した名産品

多摩川のアユは、かつては江戸幕府の将軍家にも献上された「多摩川きっての名産品」でした。清流に恵まれた多摩川は天然アユが豊富に獲れ、浮世絵でも鮎漁の様子が描かれています。

また多摩川は鵜飼漁も盛んで、大正時代から昭和初期まで遊覧船が出て鵜飼見物が行われていました。

  • 多摩川のアユ遡上調査
    名勝 玉川秋月 玉川鮎汲の図
    「世田谷の歴史と文化」(世田谷中央図書館所蔵)
  • 多摩川のアユ遡上調査
    大正末期・多摩川遊覧小舟での鵜飼見物
    「世田谷、町村のおいたち」(同)

高度成長期の水質汚染を克服して再びアユが回帰

1960年代の高度成長期は、首都圏への人口集中と生活廃水により多摩川の水質は急激に悪化し、アユも棲めない死の川になってしまいました。その多摩川も、最近では水質がすっかり改善され、再びアユが戻ってくるまでになりました。

多摩川にアユが戻ってきたのが最初に確認されたのは、昭和50年(1975年)のことでした。以来、遡上数は毎年増加傾向を示し、平成23年(2011年)には783万尾の稚アユが多摩川を遡上したと推定されています。

遡上する稚アユ

多摩川のアユ遡上調査

調布取水堰の下流で飛び跳ねる天然アユの稚魚(4月下旬)。
東京湾の干潟で育ち、若アユとなって多摩川を遡上するアユにとって、最初に迎える大きな試練がここ、調布取水堰です。


平成19年からは「アユに優しい配慮」も始まりました。

多摩川のアユ遡上調査

調布取水堰では、平成19年からアユの遡上時期だけ可動堰を倒して、堰による水位差をほとんどなくするようにしました。これでアユも、堰に邪魔されないで、楽に取水堰を通過できるようになりました。
写真は、水位差がなくなった堰で、アユの遡上を目視確認する調査員。


多摩川のアユ遡上調査

毎年調査されている天然アユの遡上数

多摩川を遡上する天然アユの遡上数は、アユの遡上が確認された後の昭和58年以降、東京都島しょ農林水産総合センター(前身は東京都水産試験場)の手によって毎年調査が行われています。

調査地点は当初より調布取水堰の下流200mの左岸側でしたが、平成19年から稚アユ遡上時期に合わせて調布取水堰の可動堰を倒すようになり、従来の場所では遡上数を正確に計数できなくなったため、平成21年からは定置網の設置位置を下流側に少し下げて、ガス橋の上流500mの左岸にしています。

下図は、アユ遡上数の経年変化を示したものです。調査開始の昭和58には20万尾にも満たなかったアユ遡上数でしたが、平成5年には100万尾を超えるようになり、平成18年以降は安定的に100万尾以上(127万~215万尾)の遡上が推定されています。
そして平成23年には大幅増の783万尾の遡上数となりました。その後も平成24年1,194万尾、平成25年645万尾と、大量の遡上が続いています。

多摩川のアユ遡上調査
出展:平成25年アユ遡上調査取りまとめ(東京都島しょ農林水産総合センター)

アユ遡上数の推定方法

まずは定置網への入網率を算定

アユ遡上調査は岸辺に設置した定置網で行います。まずは定置網で稚アユを捕獲し、目印に「あぶらびれ」を切除して「標識アユ」とします。

多摩川の調査では、標識アユ4,623尾を定置網から6km下流の六郷橋付近で放流し、その標識アユが定置網に再捕獲される割合から、遡上アユの「入網率」を決定します。
多摩川では、標識アユの再捕獲数が249尾であったことから、遡上アユの入網率は5.4%と推定されました。

定置網の模式図

多摩川のアユ遡上調査
出展:平成19年アユ遡上調査取りまとめ(同上)

稚アユの捕獲数と入網率から全体のアユ遡上数を推定します

遡上アユの「入網率」が分かれば、あとは稚アユの遡上期間全体にわたって、定置網での稚アユの捕獲数が調査されると、多摩川に遡上する稚アユの総数が次式により推定できます。

[稚アユの遡上総数]=[定置網での捕獲数]÷入網率0.054

多摩川での平成23年アユ遡上調査では、3月24日から5月29日までの調査期間で稚アユの入網数は合計422,892尾でした。その結果、推定遡上数は7,831,333尾(約783万尾)ということになりました。調査を開始した昭和58年以来、初めて700万匹を超える大量遡上数となりました。

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