多摩川アユの稚魚はどこで育つのか
(稚アユが育つ東京湾干潟)
多摩川アユの生育場所~多摩川を遡上する稚アユは東京湾のどこで育つのでしょうか? 羽田空港地先やお台場などの干潟が仔アユ、稚アユのゆりかごになっています。江戸前アユの仔魚・稚魚が、東京湾の干潟で育つ様子を紹介します。
多摩川河口に広がるヨシ原と干潟。稚アユの「ゆりかご」のひとつです。
川で生まれて海で育つアユ。
アユは「サケ目アユ科」の魚です。したがって、同じサケ目(サケ科)の魚であるサケ(鮭)と同様に、川で産卵して仔魚(しぎょ=赤ちゃん魚)の段階で海に流下して海で育ちます。
サケと違うのは、アユは寿命が1年限りであることから、アユは外洋に出ることはなく、もっぱら内湾で稚魚(ちぎょ=ヒレ・骨格などが成体の特徴を備えた幼魚)の段階をすごします。そじて、春になると若アユとして川を遡上して成魚となり、秋に産卵をして短い生涯を閉じます。
多摩川でのアユの産卵場所については別のページで詳しく紹介しています(⇒多摩川アユの産卵時期と産卵場所)。
ここでは、卵が孵化して、仔魚として川を下り、海にたどり着いて稚魚にまで成長する様子を詳しく紹介することにします。
東京湾の干潟で育つアユの稚魚
干潟がアユのゆりかご
アユの孵化と降河
多摩川のアユは毎年、10月上旬ごろに産卵をはじめ、12月上旬頃に産卵を終了します。
産卵場所は多摩川中流~下流域の平瀬です。砂利とグリ石が混じるような、きれいな川床の小石のあいだに産卵します。
産卵のポイントとなるのは水温で、日中の最高水温が20℃を下回るようになると産卵を開始し、18~16℃でピークを迎え、16℃を下回るようになると産卵行動を終了するようです。
産卵した有精卵は15日で孵化します。
孵化したばかりの仔魚(赤ちゃん魚)は直ちに海に向かいますが、まだ遊泳力もほとんどないために、瀬の急流に身をまかせて流下していくことになります。
その間、傷ついたり、ほかの魚に捕食されたりして減耗していくのは、自然の摂理で仕方ないことなのでしょう。
■孵化直後の仔魚
孵化直後の仔魚は、体長わずか8mmほどで遊泳力もあまりありませんが、懸命に海を目指します。
(画像提供:多摩川ノート)
流下仔魚の減耗率
孵化した仔魚がどれだけの割合で海にたどり着くことができるのかについて正確なデータはありませんが、長良川での調査事例が参考になります。
流下仔魚の減耗率:
『岐阜県の長良川で、1966年に行われた流下仔魚の調査では、産卵水域の下限から降河した仔魚は17億匹。そこから約15km下流の河口付近は約8億匹と推定され、仔アユの減耗率は53%と報告されました。』(「多摩川ノート」による)
せっかく海までたどり着いても淘汰の掟は厳しく、その後、稚魚にまで到達できる個体はごくわずかで、種によっては千分の一にまで減耗すると言われています。
東京湾の干潟で育つアユの仔稚魚
干潟のアマモやヨシ原がアユのゆりかご
多摩川を流下して海に入った仔魚はどこで育つのでしょうか。いろいろな調査の結果、流下したアユの仔魚は、多摩川河口のヨシ原や、お台場・城南島および羽田空港地先などの干潟で生命を繋いでいることが明らかになりました。
干潟のアマモの中や、ヨシ原などが、仔アユや稚アユを育む「ゆりかご」になっているのです。
どの干潟に生息しているのか?
東京都島しょ農林水産総合センターの調査結果
仔アユや稚アユが東京湾内のどこで生育しているかは、東京都島しょ農林水産総合センターが調査を行っています。
調査の結果、アユの仔稚魚は、東京湾奥に残された干潟の波打ち際を好んで生育していることが明らかになりました。水深が浅いと大型魚類も少なく、捕食される危険も少ないからだと推定されます。
これまでの調査でアユの仔稚魚が確認された場所
・多摩川河口
・羽田空港東地先
・城南島海浜公園
・お台場海浜公園
・三枚洲
三枚洲での曳網調査
シラスアユとも呼ばれる仔アユ
写真はいずれのも東京都島しょ農林水産総合センターによる。「内湾調査」(平成17年12月)~湾奥のシラスアユと調査風景。
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多摩川への稚アユの遡上
春3月~5月が遡上の季節
こうして東京湾干潟の「ゆりかご」で成長した稚アユは、春先には体長60~70mmにまで育って、多摩川を遡上することになります。
多摩川を遡上する稚アユ(調布取水堰)