河川敷の野菜畑は誰のもの?
(河川敷の利用考)
河川敷の野菜畑~多摩川に限らず、大きな川の河川敷には、いたるところにりっぱな野菜畑があります。あの畑はいったい誰のものなのでしょうか? そもそも河川敷で野菜なんか作ってもいいものなのでしょうか? 勝手に野菜を作っていたらどうなるのか?・・・徹底的に調べてみました。
手入れが行き届いた河川敷の野菜畑。誰が作っているのでしょうか?
多摩川について、最近よく、こんな質問を受けます。
- Q:「多摩川を散歩していると、河川敷で畑を耕してるのを見かけますが、あれって自分の土地なんでしょうか?それとも借りているんでしょうか?」
- Q:「多摩川に限らないんですが、河川敷で野菜を作るのって、違法なんじゃないですか?」
結論から先に言いますと、河川敷での野菜作りには、①自分の私有地で合法的に作っている場合と、②無許可で違法に占用している場合(不法占用)とがあります。
圧倒的に①のケースが多いのですが、それでも、河川という公共用物の敷地内に個人の私有地があるのは何だか納得ができません。
- ・なぜ、河川敷の中に私有地があるのか。
- ・どういう理由で、畑を耕し野菜を作ることが許可されているのか。
- ・もし不法占用して野菜を作っていたらどうなるのか。
ここでは法律のはなしも含めて、そこら辺りを徹底解説したいと思います。
多摩川河川敷の野菜畑
河川敷にある野菜畑
個人の私有地
多摩川は一級河川ですので国(国土交通省)が管理しています。国の管理ですから当然国有地ということになります。
確かにその通りなんですが、一部には先祖伝来の私有地がたまたま河川敷の中にあることもあって、現在野菜畑になっているような土地は大概がそんな「私有地」なのです(専門用語で「堤外民有地」といいます)。
河川は太古の昔より氾濫を繰り返し、流路をその都度変えながら現在に至っています。
多摩川の左岸と右岸に同じ地名があることからも分かるように、左岸にあった土地がいつの間にか右岸になっていたなんてことはざらにあります。
河川敷の中に私有地があっても、何ら不思議はないのです。
河川管理者も手が出せない河川敷の「私有地」
長ネギ、大根、白菜、ブロッコリー・・・季節野菜が見事に育っています。
河川管理者といえども、「私有地」での野菜作りには口出しはできません。
多摩水道橋上流の野菜畑。左右がグランドに挟まれています。
「右側の土地は以前はブドウ園だった・・」とは、野菜畑の地主さんの弁。
水は目の前の多摩川からポンプで汲み上げるのだそうです。
もし不法占用していたらどうなるか
河川法違反で処罰も
個人の私有地でもなく、占用許可も得ずに無断で河川敷に畑を作っていたらどうなるか? 下の写真のような「警告看板」が畑に立てられます。
看板には、「河川法第24条(土地の占用)と、第27条(土地の形状変更)に違反しているので、直ちに現状回復するように!」との注意文が書かれています。
無視したら最終的には強制代執行で撤去されます。
悪質な場合は「逮捕・起訴」といったことが無いとも限りません。
畑は堤防に悪影響を与える?
河川敷地内に畑を作ると、耕すことで土が軟らかくなってしまいます(土地の形状変更)。洪水の時に水が畑を流れるとそこが掘り下げられ、水の流れを変えて堤防を壊してしまう恐れがあります。
そのため現在では、私有地は別として、新たに河川敷を畑や水田などとして使用することは許されなくなっています。不法耕作地は見つけ次第、撤去しているのが現状です。
河川法による管理
法律の解説
河川区域内の野菜畑は「河川法」によって規定されています。河川区域内の土地を占用しようとするものは、河川法第24条の定めるところにより、河川管理者の許可を受けなければならないことになっています。
ただし、同法雑則・河川法第87条(経過措置)により、河川法が施行された昭和40年4月1日よりも以前に、権原に基づいて河川敷で畑作などを行っているものは、この法律による許可を受けたものとみなす、とも規定されています。
権原(けんげん)とは、所有権や小作権など、法律によって保護されている権利を言います。
すなわち、昭和40年以前に河川敷を所有していたものや、小作権などにより農作業を行っていたものは、その後も継続して河川敷を利用することが認められています。また、相続人はこの地位を承継することができます。
河川法第24条(土地の占用の許可)
河川区域内の土地(河川管理者以外の者がその権原に基づき管理する土地を除く)を占用しようとする者は、国土交通省令で定めるところにより、河川管理者の許可を受けなければならない。
【雑則】 河川法第87条(経過措置)
一級河川、二級河川、河川区域、河川保全区域、河川予定地、河川保全立体区域又は河川予定立体区域の指定の際現に権原に基づき、この法律の規定により許可を要する行為を行つている者又はこの法律の規定によりその設置について許可を要する工作物を設置している者は、従前と同様の条件により、当該行為又は工作物の設置についてこの法律の規定による許可を受けたものとみなす。(以下略)
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河川敷の市立公園内にある農園
じつはこれも私有地
多摩川左岸の狛江・調布の市境界近くに、調布市の「多摩川五本松公園」があります。
河川敷内の公園ですから当然、河川法第24条に基づく土地の占用の許可が必要です。その許可標識が現地に掲示されているのですが、何と占用の敷地内に野菜畑があります。
河川占用許可標識は「多摩川五本松公園」を占用目的としたもの。公園の一角には畑があります。
占用境界杭もきちんと整備されており、野菜畑が占用公園内にあることは間違いありません。
調布市が、市内の老人会や園芸同好会などの活動支援に、「野菜作り」を始めたのでしょうか?
調布市の「環境部 緑と公園課」に確認してみました。答えは「公園内にある私有地」だということでした。畑は市がやっているのではなく、土地所有者が個人で野菜を作っているのだそうです。
行政として、公園の一部を野菜畑に解放するようなサービスがあってもいいなと思っていただけに、少しがっかりしました。
それにしても、市が使えない私有地だったら、最初から公園区域から外すことはできなかったのでしょうか? もっと詳しく調べてみる必要がありそうです。